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どうしても兄の側にいたいというアルフォンスの願いを、笑って許した自分を不思議に思った。そうしたかったのは、むしろ自分だ。この世界を全て捨てて、何もわからぬ世界で彼と二人で生きてみたいと一瞬、しかし強く思った。無論彼はそのようなこと、ちらりとも考えたことがないだろう。相手が私ではなおさらだ。


彼の生存を一番信じていたのは、幼馴染の少女ではなく、記憶をなくした彼の最愛の弟でもなく、この自分であったと自負している。いや、信じていたというのは適当ではない。その想いを言葉に表すことは簡単ではない。あえて表現するのなら"未練"か。一面の雪の中で、戯れに彼の名をつぶやいたことも一度ではない。女々しい行為だとは思ったが、どうしても耐えられないときだけは、それを自分に許した。記憶のない彼の弟には、彼を探す資格があった。しかし、私にはない。私に許された行為は、ただ想うことだけだったのだ。いつか彼に再会できると信じることだけだったのだ。


日毎夜毎願った彼との再会は、あっけないものだった。しかし、彼の自分を見る瞳には、以前と変わらぬ信頼があった。その瞳は、他の誰にでもなく自分ただ一人にだけ向けられるものだった。私はその瞳を見ることができて、満足してしまったのかも知れぬ。だから、私は彼の弟が彼のもとに行くこと、そしてその後始末をすることまでを引き受けてしまったのだ。


彼ら兄弟の人生は、あまたの犠牲の上に成り立っている。優しい彼らは、いつまでもその痛みを忘れることができないのだろう。自分もきっと彼らの痛みの一つだ。側にいることばかりが愛ではない。彼を引き止めぬこと、そして彼の弟を行かせること。この二つのことで、私は彼の中で母親と弟の次ぐらいの位置に置いてもらえたのではないかと、あさましい期待をしている。それは、一つの永遠の方法ではないかと思うのだ。



扉を破壊する瞬間、私は二度と会うことの叶わぬ彼の名を呼んだ。その名を口にすることはこれで最後にしようと、ありったけの想いを込めた。



「さようなら。エドワード。」







大佐とエドが二度と会えなくなっちゃったので、寂しくて勝手に捏造しちゃいました。エドの名前をつぶやく大佐とか気持ち悪い。でも、「大佐が待ってんのは中佐じゃないんだよ」(うろ覚え)みたいな言葉にキュンと来ちゃいましたので、書かずにはおれなかった〜。あとは、ハインリヒがかなりツボだったので彼とエドの話も書きたいな〜と思ったりしております。

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